「長年勤め上げてきた会社からの退職金は、老後の生活を支える大切な最後の砦…」
「自己破産をしたら、この退職金もすべて差し押さえられてしまうのだろうか?」
自己破産を検討される際、特に長年同じ会社にお勤めの方にとって、退職金の扱いは極めて重大な関心事です。将来の生活設計の根幹をなす退職金を失ってしまうのではないかという不安は、手続きへの大きなためらいとなります。
結論から言いますと、退職金が全額没収されることはありません。法律では、退職金の一部は生活保障のために差押えが禁止されており、一定の計算方法に基づいて算出された金額のみが処分の対象となります。
この記事では、なぜ退職金が全額没収されないのか、その法的な理由と、処分の対象となる金額の具体的な計算方法について、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。
なぜ退職金は全額没収されないのか?【差押禁止財産】
退職金は、法律上「賃金の後払い」としての性質を持つと考えられています。あなたの長年の労働に対する対価であり、将来の生活を支える重要な原資です。そのため、給料の一部が差押禁止とされているのと同様に、退職金もその一部が法律によって手元に残すことが認められています。
具体的には、民事執行法により、退職金を受け取る権利(退職金債権)の4分の3は「差押禁止財産」と定められています。つまり、自己破産の手続きにおいて、処分の対象となるのは最大でも退職金の4分の1までということです。
【ケース別】処分の対象となる退職金の計算方法
処分の対象となる金額は、あなたが自己破産の申立て時点で「すでに退職金を受け取っているか」「まだ在職中か」によって計算方法が異なります。
① まだ在職中で、退職金を受け取っていない場合
この場合、処分の対象となるのは「退職金見込額の8分の1」です。
「なぜ4分の1ではないのか?」と疑問に思うかもしれません。これは、あなたが将来確実にその退職金を受け取れるとは限らない(会社の倒産リスクなど)ことや、生活再建への配慮から、裁判所の実務運用上、差押え対象である4分の1をさらに半分にした「8分の1」という基準が広く採用されているためです。
そして、この「見込額の8分の1」が20万円以下であれば、原則として処分の対象とはならず、全額が守られます。
【計算例】
現在の退職金見込額が800万円の場合
800万円 × 1/8 = 100万円
この100万円が「資産」として扱われ、処分の対象となります。(実際に退職する必要はなく、この100万円を裁判所に納めることで手続きを進めます)
② すでに退職金を受け取っている場合
すでに退職金を受け取り、それがあなたの「現金」や「預金」になっている場合、話は少し変わります。そのお金はもはや「退職金」ではなく、あなたの手持ちの財産として扱われます。
そのため、原則として以下の基準が適用されます。
- 現金として保管している場合:99万円までは自由財産として手元に残せます。
- 銀行に預金している場合:個別の口座ごとに20万円までが自由財産と見なされるのが一般的です。
法律上は受け取った退職金の4分の3が保護されるべきですが、預金になるとその性質が失われると判断されやすいため、高額な退職金を受け取った直後の自己破産は、手元に残せる金額が少なくなる可能性があります。タイミングについては、必ず弁護士にご相談ください。
処分の対象額が支払えない場合はどうする?
在職中の方で、上記計算例のように「資産」として100万円を計上された場合、その現金をすぐに用意できないケースがほとんどです。その場合は、弁護士の受任通知で借金の返済を止めている間に、弁護士費用などと一緒に分割で積み立てていく、あるいはご親族から援助を受けるなどの方法で準備を進めることになります。
中小企業退職金共済(中退共)などは差押禁止
なお、中小企業退職金共済(中退共)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などは、それぞれ個別の法律で差押えが禁止されています。これらの制度による退職金や年金は、自己破産をしても全額が守られます。
当事務所は、皆様の複雑な自己破産・債務整理問題を解決するために、他にはない強みを持っています。
①1972年創立、所属弁護士数約100名の実績と経験
1972年の創立以来、半世紀にわたり数多くの破産・債務整理案件を手掛けてまいりました。約100名の弁護士が所属しており、それぞれの事案で蓄積された豊富な判例知識と実務経験を基に、ギャンブルや浪費が原因の借金等の困難事情でも最適な解決策をご提案します。
②税理士・司法書士有資格の弁護士が対応
破産問題、特に不動産や多額の財産が関わるケースでは、税務の視点が欠かせません。当事務所横須賀支店には、税理士・司法書士有資格の弁護士が在籍しています。法務と税務、登記の全方面から多角的なアドバイスをして最善の解決を目指します。
③ 報酬分割支払前でも速やかな対応
多くの法律事務所では、報酬支払後に手続を行いますが、当事務所では、報酬支払い前でも内部審査で問題が無ければ速やかに手続を進めます。
自己破産・債務整理にお困りの方は虎ノ門法律経済事務所にご相談ください。