「離婚した相手に、不貞行為の慰謝料を請求している最中です」
「交通事故に遭い、加害者に対して損害賠償を請求しています」

ご自身が借金問題で苦しんでいる一方で、第三者に対して何らかの損害賠償や慰謝料を請求する権利(請求権)をお持ちの方もいらっしゃいます。この「これから受け取るはずのお金」は、自己破産の手続きにおいて、ご自身の「財産」として扱われ、処分(没収)の対象となってしまうのでしょうか。

結論として、慰謝料請求権が処分の対象となるかどうかは、その慰謝料が「精神的苦痛に対するもの」か「財産的損害に対するもの」かによって、法律上の扱いが異なります。非常に専門的な判断が求められる分野です。

この記事では、慰謝料請求権が自己破産でどのように扱われるのか、その法的なルールと具体的なケースについて、税理士・司法書士有資格の弁護士が分かりやすく解説します。

慰謝料請求権における「2つの性質」

慰謝料や損害賠償を請求する権利は、その発生原因によって、法律上大きく2つの性質に分けられます。自己破産で処分されるかどうかは、この違いによって決まります。

① 精神的苦痛に対する慰謝料 → 原則として処分されない

心や身体が傷つけられたことによる「精神的な苦痛」に対して支払われるお金を請求する権利です。これは、その人個人の人格と固く結びついた権利(一身専属的な権利)と考えられているため、他人に譲渡したり、差し押さえたりすることはできません。したがって、自己破産の手続きにおいても、原則として処分の対象とはなりません。

【具体例】

  • 離婚慰謝料(不貞行為やDVなどが原因の場合)
  • 名誉毀損による慰謝料
  • 傷害慰謝料(交通事故などで怪我をしたことに対する慰謝料)

② 財産的損害に対する賠償金 → 原則として処分される

あなたの財産が失われたり、得られるはずだった収入がなくなったりしたことによる「財産的な損害」を補填するお金を請求する権利です。これは、通常の財産権と同じように扱われるため、自己破産の手続きにおいては、処分の対象となる「財産」と見なされます。

【具体例】

  • 交通事故による休業損害や逸失利益
  • 器物損壊(物を壊された)による修理費用の請求権
  • 詐欺や横領による被害金の返還請求権

【重要】権利が確定すると「預金」と同じ扱いに

上記の原則には、非常に重要な注意点があります。精神的苦痛に対する慰謝料であっても、相手方との示談が成立したり、裁判で判決が確定したりして、具体的に支払われた後は、もはや一身専属的な権利ではなく、単なる金銭に性質が変わります。

そして、あなたの銀行口座に振り込まれた瞬間からは、「預金」として扱われます。そうなると、預金残高が20万円を超える部分は、処分の対象となる可能性があります。慰謝料請求権の交渉状況や、受け取るタイミングが、自己破産の手続きにおいて極めて重要になるのです。

【ケース別】具体的な慰謝料請求権の扱い

離婚慰謝料の場合

不貞行為などを理由とする慰謝料請求は、精神的苦痛に対するものであるため、請求している段階では処分されません。しかし、前述の通り、協議や裁判で金額が確定すれば、財産と見なされます。破産手続きの前に金額を確定させるべきか、後にするべきかは、事案に応じた専門的な判断が必要です。

交通事故の損害賠償の場合

交通事故の損害賠償は、様々な性質のお金が混ざっています。

  • 傷害慰謝料:精神的苦痛に対するもの → 権利は処分されない
  • 車両修理費用・休業損害等:財産的損害 → 権利も処分される可能性がある

このように、一つの請求権の中に、処分される部分とされない部分が混在することになります。

手続き上の絶対的なルール

慰謝料請求権をお持ちの方が自己破産をする場合、以下の点は必ず守ってください。

  • すべての請求権を正直に申告する:たとえ処分されない権利であっても、慰謝料を請求している事実自体は、必ず弁護士と裁判所に申告する義務があります。これを隠すと「財産隠し」と見なされ、免責不許可となる最悪の事態を招きます。
  • 自己判断で示談や取り下げをしない:自己破産の手続きが始まると、財産に関する交渉は破産管財人が行うことになります。勝手に示談などを進めると、問題になる可能性があります。

慰謝料の問題が絡む自己破産は、極めて専門的な判断が求められます。ご自身の権利を正しく守り、かつ、誠実に手続きを進めるためにも、必ず弁護士にご相談ください。


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